みっともない話の続き

娘が離婚届を持って向こうの家に行って暫くしてから、朝、身分証明を見せて下さった刑事さんが一人で尋ねていらした。
少しお話を・・・とのことで、家の中に入って頂き向き合う。
とても物静かな紳士。

改めて名刺を下さった。

”刑事課 知能係”の文字が、娘婿のやったことを想像させる。
詐欺、それも相当悪質な事らしい。
これも偶然、ある事件の関わりで事情聴取をした大学生から、あの、お金や資料を持ち逃げした友人のことが浮かんで、その関係で写真を被害者に見せると何人もの証言が出たらしい。
色々と説明してくださったけれど、実は専門的で良くわからない。
分かったことは詐欺の犯人と言うこと。


新しく立ち上げた会社も、以前のITの会社もそれ自体は何の問題も無いキチンとした会社だったらしい。
ただ、若くして始めた最初のうちが大変で、例の持ち逃げの友人と共に、悪に手を染めたらしい。
いわゆるカード詐欺や、携帯名義利用の詐欺。


離婚届は必ず今日提出受理してもらうこと。
そのことを確認して、自分は明日の日付で書類を作る。
そうすればこちらの家族には何の問題も起こらない。
ご主人(父親)には犯罪者だったことは言わない方がいい。
もし話すとしてもほとぼりが冷め、何の影響も無いことがハッキリしてからの方が良い。

そんな風に話してくださった。


若い娘はともかく、いい年の親が付いていてこんな相手とも分からず結婚をさせてしまったことが私の心に引っかかっていた。
今の子はやたらに反対すると駆け落ちしたりして連絡が取れなくなってしまう恐れがあり、連絡の取れる情況をなくしたくなかった。

そんなことをふと漏らすと、
「いえ、お母さんの選択は今の時代、もっとも正しいです。
ニュースでよく行方不明とか、山中で死体発見とかありますが、多くが交際や結婚を反対されたり、厳しすぎる親の場合が多いんです。
今の時代は昔と違い難しいですからね。一番大切なことは連絡の取れる情況、何かあったら頼ってこられる親子関係を無くさない事なんです。
ことに若い女の子はいくらでも食べていけますし、利用価値が高いということで、外で大事にされますからね。」と。

「同じ仕事仲間で、こういう犯罪者のことを良く知っている者の家でも、娘さんが恋人として連れてきて親子共に騙されています。
彼らの商売は人を騙すことですから本当に上手なんです。そんなことに関係の無いキチンとした人間ほど簡単に騙しやすいっていいますから、詐欺働く相手と比べたら、自分を”善人”に見せることなんて朝飯前なんですよ。」
と慰めてくださる。

父親が厳しい家の子ほど優しい言葉に騙される。今回の様なことも父親は、ほとんどの場合が怒鳴ったり怒ったりで親子関係が悪くなり、娘さんが家出するケースが多い。
だから父親に知らせるのならほとぼりが冷めるのを待った方がいいとのこと。


そして今回、もし結婚を反対していたらきっと、仕事がうまくいかなくなった時点で娘さんを騙してどこか水商売の所に住み込みで働かせたりした可能性が高い、という様な事も話してくださった。
すこ〜しだけ救われた気がした。
夜、次女もそんなことを言っていた。


昼間話しているときにサラッと言った刑事さんの言葉に実はかなりショックを受けた。
「申し訳ないのですが、何日か見張らせて頂きました。いわゆる張り込みです。」

ドキッ! 
あぁ・・・あれも、これも、あのことも・・・
知らないとは何と大胆で居られることかと行動を反省。
女三人、このことに冷や汗。


この二日後に別の刑事さんが次女に電話を下さり、離婚届は問題なく受理されたかどうか、また、処理時間の関係で次の日になっている場合があるので、取調べ書類の日付を今日(電話の日)にしますとわざわざ知らせてくださった。
至れり尽くせりの心配り。本当に感謝。


この当日は笑ったり怒ったり感情が動いた。
時間が経つと共に、感情が死ぬ。どこまでも心が落ちていく。一日経てば一日分。二日たてば二日分というように深く深く沈む。
”無気力”の言葉が実感を伴って理解できる。
日毎に何もする気が起こらなくなる。テーブルが汚れようが、部屋が散らかろうが動けない。
出るのはため息だけ。
次女を追い詰めたくない一心で何とか日常を形づくる。


私ですらそうなのだから、次女の気持ちは・・・。
いつもなら私や長女に当たったり、泣いたり喚いたりの子が静か。
「哀れを誘う・・・」と長女。



本当の事情を知らない夫。
単なる離婚と思っている。
次女に直接文句も嫌味も言えない夫から、私は毎日毎日責められる。
でも真実を知ったら一転して、どんな言葉で次女をののしることか・・・。

あ〜〜〜あ、今度は私が離婚したい。
そもそもこんな時、うまく行っている夫婦なら心を割って話すことも相談することも出来る。
次女の気持ちや痛みを伝え、上手に対応してもらえる。

以前次女に問題が発生した時、信じて相談して大変なことになった。
新聞に載らないだけましという様な情況。
その時から家族はバラバラ。
ガタガタと音を立てて家が崩れおちているような気がした。


今回の事。女三人、このことは心にしまおうと約束をした。